随意随想

「面白探し」

ファミリー褐注K開発部部長 羽間鋭雄

昨今の、高校生など若者に対する意識調査では、「将来の就職への不安」とか「日本の将来に希望が持てない」という答えが大多数を占め、最近の調査では、それが80数%にも上るという報道に触れました。

実際、政府の外交における無力さや、経済不況と就職難、政局の混乱などなど、不安な出来事に満ちた世情にあって、明るい未来を夢見ることができず、将来の希望を「平社員」と応える子供や無気力な若者たちのことが話題になる度に心が痛みます。  しかし、そんな中にあっても、一方すごい若者がいることも事実です。石川遼君をはじめ、大学院で教授をしのぐ研究成果を上げる学生やクイズ番組で驚くべき能力を発揮する高校生などなどスポーツ、音楽・芸術、囲碁、将棋、研究などいろんなところで凄い力を発揮する若者を見ることも珍しくありません。  そして、その凄い彼らに共通していることは、彼らが、面白いこと、好きなこと、夢中になれることを見つけたということです。面白いからこそ、好きだからこそ夢中になり、凄い能力を発揮し、凄い成果を挙げることができたということではないかと思います。  英語のeducationの語源は、ラテン語の「能力を引き出す」ことであり、studyは「熱中、熱意」を意味するといわれます。すなわち、教育や勉強の本質とは、「夢中にさせて能力を引き出す」ことだと考えられていたということです。  ここで改めて、日本語の、「勉強」と「教育」という文字をみたとき、それをそのまま解釈すると、「強いて勉めさせる」と「教えて育てる」という意味になります。すなわち、「強制的に教えて育てる」という概念が日本の教育の根底にあるのではないかと思われるのです。  子供らしい夢や希望に目を輝かせる子供が減った原因の一つに、生きることや学ぶことの面白さを見つけさせることができなかった学校教育にも、その責任の一端があるのではないかと、40年間大学で教鞭をとり、現在も教育委員長として教育に携わるものとして、今私は、自戒をこめて強く感じています。  昨年のノーベル賞受賞者の鈴木章博士があるTV番組で、「セレンディピティ」という言葉を口にされました。これは、ふつう「幸運な偶然」といった意味で使われますが、時には、「果報は寝て待て」とか「棚からぼた餅」といった説明も見られます。  しかし、このセレンディピティの本当の意味は、「偶然を幸運に結びつける能力」のことをいい、いわゆる「たなぼた」のように、幸運が勝手にやってくるということではありません。鈴木博士は、その研究過程において、いくつかのセレンディピティに恵まれたことがノーベル賞受賞に繋がったと話されましたが、同時に、セレンディピティとは、何もしないでただ漫然と待っていては、決して生まれることはないとも強調しておられました。すなわち、幸運な偶然との出会いは、わき目もふらず一つのことに集中して取り組み、ひたすら努力するという過程の中にのみあるということです。  つまるところ、幸運の偶然に恵まれることも成功することも、一心不乱に物事に取り組むことが大切だということですが、そのためには、まず、好きなこと、面白いと感じることを見つけることが必要です。  「好きなこと」「夢中になれること」は、年齢を重ねるとともに、いずれそれは「生きがい」という概念に変わってきます。年齢や置かれた状況によって「生きがい」は変わってきますが、死を迎えるそのときまで、いつも、「好きなこと」「夢中になれること」「生きがい」を持ち続けることは、充実した、幸せな人生を送る上で、欠かすことのできない大変重要なことです。  何らかの職業についているときは、ふつう、仕事の中に生きがいを見つけようとする人が多いでしょうが、仕事を離れ、年齢を重ねるごとに、生きがいや面白いことを見つけることが難しくなってきます。  しかし、ただ、漫然と待っているだけでは「幸運な偶然」に恵まれないように、面白いことを見つけるためには、面白いこととの出会いを漫然と待っているのではなく、「面白いことを探す努力と」、「面白くなる努力」をすることが大切です。  たとえ趣味であっても、ちょっとがんばれば成果が上がり、成果が上がることの喜びや面白さが次の努力を生むという、努力と成果のスパイラルが生まれたとき、そこに、生きる喜びや生きがいを見出すことができ、充実した人生に繋がっていくだろうと思います。  仕事や趣味を持っている人は、それが、少しでも面白くなる工夫と努力をしてみてください。仕事も趣味も持っていない人は、まず何か興味の持てることを探し始めてください。そして、そこに面白さを見つける工夫と努力をしてみてください。  ボケを防止し、心身を健康にする方法として、面白い、楽しいと思える日々を過ごすことに勝るものはありません。  「面白探し」こそ、自分も、周りの人も満たされて死に至るための最大の課題かもしれません。

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