随意随想

「高齢者虐待を防止するために」

大阪市健康福祉局高齢者施策部要援護高齢者支援担当課長代理 植村 益子

平成18年4月に「高齢者虐待の防止、高齢者の養護者に対する支援等に関する法律(高齢者虐待防止法)」が施行され、5年が経過しようとしています。

大阪市では区保健福祉センターと地域包括支援センターを高齢者虐待の相談・通報窓口と位置づけ、高齢者虐待への迅速かつ適切な対応と養護者支援に努めています。地域包括支援センターは介護保険法の改正により平成18年4月から設置された機関で、高齢者が住み慣れた地域で安心して暮らしていけるよう、介護・福祉・保健・医療などの適切なサービスが切れ目なく提供できるよう支援するため中心的な役割を担っているところです。

大阪市における平成21年度の高齢者虐待の相談・通報件数は461件で、その内虐待と判断した件数は340件となっています。

高齢者虐待は介護疲れ、認知症による高齢者の言動の混乱、高齢者や養護者の長年の人間関係、経済状況などいくつもの要因が複雑にからみあって発生しますが、特定の人や家族に起こるものではなく、どこにでも誰にでも起こる可能性があります。

この法律でいう高齢者とは65歳以上の人ですが、65歳未満の人でも客観的にみて権利利益が侵害されている場合には、法律に準じた対応が必要だと考えています。

広い意味で高齢者虐待とは、「高齢者が他者からの不適切な扱いにより権利利益を侵害される状態や生命、生活が損なわれる状態に置かれること」と捉えていますが、法律では5つの類型に分けています。虐待に該当する具体的な行為は下の表を参考にしていただきたいと思いますが、高齢者虐待は複数の種類の虐待が同時に起こっていることが多く、例えば「高齢者に必要なお金を使わせず、必要な医療や介護サービスを受けさせない」というのは経済的虐待と介護世話の放棄・放任が同時に起こっている状態です。

一般的に高齢者虐待は外からは見えにくいところで起こるため、家族や養護者が地域で孤立したまま、重篤な事態に陥ることがあります。対応が遅れないように、この法律では届出制度とともに通報制度を取り入れています。

「虐待を受けたと思われる高齢者を発見した者は、『その高齢者の生命、身体に重大な危険が生じている場合』は、速やかに市町村に通報しなければならない。」と通報義務を謳っています。また、『それ以外の場合、通報するように努めなければならない。』と努力義務を謳っています。

ここでは、「虐待を受けた高齢者」ではなく「虐待を受けたと思われる高齢者」としており、虐待かもしれないと思った段階で通報してくださいとしています。

虐待は虐待している人もされている人も自覚がない場合があります。また、虐待を受けている人の中には、養護者をかばおうとしたり、虐待を受けていることを知られたくないという思いから、虐待の事実を訴えない場合もあります。しかし、客観的に高齢者の権利利益が侵害されている場合は、虐待の疑いがあると思って対応することが必要です。

虐待かもしれないと思ったり、地域で気にかかる家族がおられたら、まずは区保健福祉センターもしくは地域包括支援センターへご相談をおねがいしています。また、「高齢者相談8181」(TEL4392―8181)でも、24時間365日高齢者のさまざまな電話相談に応じています。

実際、通報を受け、事実確認を行った結果、虐待ではなかった場合もありますが、その場合は虐待でなくてよかったねと喜んだらいいと考えています。

認知症は、単にもの忘れがひどくなったということではなく、脳の病気によっておこるものですが、虐待を受けた人の約半数に認知症の症状が見られます。認知症になった現実を家族が受け入れられなかったり、対応方法が分からないということが虐待につながることがあります。大阪市では、認知症の人やそのご家族が抱えている悩みや不安について電話で相談できる「認知症支え合いコールセンター」(TEL6871―8277 月〜金10時〜16時)を開設し、認知症介護の経験者等が相談に応じています。また、地域包括支援センターでも認知症のさまざまなご相談に応じています。

大阪市では、市レベル・区レベルの高齢者虐待防止連絡会議を設置し、関係機関が連携し、情報の共有や意見交換、啓発広報等を行い、高齢者虐待の防止に取り組んでいます。

しかし、虐待を未然に防止し、早期に発見し、早期に対応するには、行政や関係機関だけではなく、高齢者が住み慣れた地域で安心して暮らせるよう、地域の人々が協力し地域ぐるみで高齢者や介護する家族を見守り支援していくことが、本当に大切だと考えています。

身体的虐待
平手打ちをする、つねる、殴る、蹴る、無理やり食事を口にいれる、やけど・打撲させるなど

心理的虐待
怒鳴る、悪口を言う、排泄の失敗などを人前で話して恥をかかせる、高齢者が話しかけているのに意図的に無視するなど

介護・世話の放棄・放任
食事や水分を与えない、おむつの交換をしない、病気の兆候があるにもかかわらず診察を受けさせない、暖房等の適切な環境をつくらせないなど

経済的虐待
日常的に必要な金銭を渡さない・使わせない、年金や預貯金を本人の意志・利益に反して使用するなど

性的虐待
排泄の失敗に対して懲罰的に下半身を裸にして放置する、性器への接触、セックスを強要するなど

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