随意随想

「住み慣れた地域に会いたい人がいる」

大阪市立大学生活科学部人間福祉学科非常勤講師 竹村 安子

昨年、死亡していた高齢者がその手続きをしていないという事件が発覚しました。そして、それを皮切りに、そのような状況の高齢者が多く見つかり、各自治体により100歳以上の高齢者の調査が行われました。そして、多くの高齢者が死亡あるいは行方不明という状況が分かってきました。

これは何を意味するのでしょう…。100歳以上の高齢者の子どもたちというと、多くは80歳以上で、あまり好ましくない言い方とされる「後期高齢者」でしょう。そして今、三世代・多世代で暮らすということが、価値観の変化や仕事の都合、住居の狭さ等により急激に少なくなっています。親族や親戚とのつながりも薄れ、地域社会とのつながりも薄い「無縁社会」となっていっているのです。そのような社会の中で、起こるべくして起こった事件といえるのではないだろうか。否、この問題はこのまま終わるのではなく、これからはもっと起こってくるのではないだろうか…。そんな心配を、今強くもっています。

多くの人は、できれば最後まで、住み慣れたところで、安心して、安全に、自分らしく、活き活きと暮らしていきたいと望んでいます。高齢で一人暮らしや二人だけの暮らしとなり、心身が弱ってきた時に、それは可能でしょうか? 「介護保険がある」「暮らしていくための資産は貯めている」等の声があがるでしょう。しかし、それだけで、安心して、安全に自分らしく、活き活きと暮らしていくことは難しいのではないだろうか…。

自分自身の老後の暮らし方(資産運用や旅行計画・趣味等だけでなく、近隣での友人づくりや地域活動の参加等も含めて…)を考えていくことが大切なのではないだろうか。言い換えると「会社人間」から住み慣れた地域で暮らしていく「社会(地域)人間」に、ということです。「そんなこと何で…」という人もいるでしょうが、自分が地域を知らないというのは、地域もあなたを知らないということではないでしょうか。多少のしんどさや気兼ねがあっても、暮らしを見守ってくれたり、なによりも、そこには知り合いや友人との交流があるといえます。

また、自分の老後の暮らし方を考えると共に、大切なことは、老人クラブや地区社会福祉協議会、町会などの地域団体が、地域で活躍できるいろいろな活動や居場所をつくっていくことが求められているといえます。

自分の趣味を活かすことや、やってみたいと思っている活動に気軽に参加できる、そのような「場」が地域にあること、そして、意見が言いやすい運営がされていること、それらが大切です。それでは、「行政に要望して…」「補助金をつけてもらって…」というのが、今までのやり方だったと思います。それだけでなく、自らが主体者となって自らの老後を設計する、そして、その中で、暮らしている地域の「これから」も考え、地域活動に参画して、活動を創造し、地域を創っていくということが、実は、自らが活き活きと暮らしていくということにつながっていくのではないかと思います。そのためには、老人クラブや地域団体の活動や運営などを考えていくことも必要になってきているのではないかと思います。

今、何日か何時間か自宅を開放して、近隣の人たちの「おしゃべり」の場をつくる「住み開き」という活動が少しずつ広がってきています。また、地域に「喫茶サロン」はあるけど、高齢者のおしゃべりを中心にした、高齢者による「高齢者サロン」も生まれてきています。これらの活動は、クラブ会員の方々の子ども時代には「サロン」や「住み開き」などと銘打たなくても、近所の高齢者がどこかのお家でお茶を飲みながらおしゃべりしているという、当たり前にあった風景です。

住み慣れた地域に「会いたい人がいる」「行きたい場所がある」という暮らしができたらと思います。そのためには、老人クラブや地域団体との連携や、それらの団体がリーダーとなって、活動が展開できていったらと願ってやみません。

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