随意随想

「記録魔の健康管理」

大阪ソーシャルワーカー協会会長 大塚 保信

とりわけて車マニアというわけではないが、これまで40年余りの間に4代の自動車を乗り継いできた。1台あたり10年間使用したということになるが、それも1台ごとの車は必ず走行距離30万km乗りこなしている。10万kmを超えれば「よく乗りましたねえ」と言われるが、30万kmというと業務用のタクシー並みであろう。人間の寿命でいえば100歳前後に相当するのではないかと思っている。

実は車を長く良い状態で保持するのに私なりのちよっとした秘訣がある。ガソリンを給油するたびに1リットル当たり何キロ走行したかの燃費状態を記入するのは勿論のこと、オイル交換や定期点検等のメンテナンスの記録は常備している愛車専用の手帳に克明に記録している。また77777kmや12345kmとか特異な数字が揃った時にはなぜか嬉しくて、何年何月何日何時何分にどこの地域を通過したかもメモ魔のように書き込んである。

40年間日本全国を走り回った記録を書き込んだ数冊の手帳は今でも手元に保存しているが、自動車修理工場から参考資料として所望されたほどである。

記録と言えば、体重を減らすために様々な方法が紹介されているが、無理をしてあれこれ試みるより、朝昼晩何を食べたかをメモしておくだけで意外と効果があるのはよく知られている。

さて、愛車の健康保持と長寿については今のところ一応成功しているが、肝心のわが身の事となるとあまり自慢は出来そうもない。

健康保持の基本は「栄養のバランスと適度な運動」であるということは、これまでに嫌ほど聞かされてきた。幼い頃から食べ物の好き嫌いは激しかったが、いまでは栄養士の資格を有する妻にすっかり調教されて、卓上の食物は何でも食するようになり栄養のバランスはまずまず問題ないと思っている。

しかし運動の方は、そのうち、そのうちと思っているうちにチャンスを逸してしまうことが多く、腰部脊柱管狭窄症で長年苦しんでいることもあってつい遠のいてしまっている。しかし負担が少ない散策歩きだけは積極的に取り組んでいる。

ここでまた、私のメモ魔魂が頭をもたげてくる。朝起きた時に真っ先に小さな万歩計をポケットに忍ばせることから1日が始まる。今の万歩計は誠に便利にできていて歩いた距離数や運動による消費カロリーまで表示してくれる。人一倍短足にもかかわらず少し見栄を張って一歩60cmとして万歩計にインプットし、愛車手帳と同じ様に一日の歩行距離を測り毎日書き込んでいる。

またアルコール性肝臓疾患の値が高目だとの指摘を受けているので、酒類を口にした日は×印、飲まなかった日は○印を歩行距離の横に記入し健康管理の目安にしている。一度記録し始めたら楽しみ半分、意地が半分でもうかれこれ30年毎日欠かさず手帳に記入している。

歩く楽しみと言えば、私の尊敬する高齢者が、大阪から京都まで歩き、後日電車で京都に出かけそこから米原あたりまで歩き、また何度も日を改めて東へ東へ歩を進め、とうとう2年間で東京まで歩かれたことがある。しかも途中の休憩の間に俳句を詠まれ一冊の本にまとめられた。その本の題名が「俳キング」という、何とも洒落た御方であった。

一日平均7452歩、年間1631km、これが昨年私が一年間に歩いた総計である。1631kmといえば1年間で大阪から北海道の宗谷岬か沖縄の石垣島あたりまで歩いたことになる。

ところがアルコール飲酒を記録した○印は138日にたいし、飲酒日の×印は228日もあり、酒類の魔力から逃れることはできず、断酒はおろか減酒の修行はまだ道半ばである。

昨秋、定年退職記念の海外旅行に出かけたが、大阪から遠く離れた地中海に位置するトルコのイスタンブールまで、僅か4507歩でたどり着くことができた。そんな馬鹿なというご指摘もあろうが、自宅玄関から関西空港までと飛行機の中での歩数を記録した万歩計が示した数値である。

勿論11時間に及ぶ飛行時間の殆どはエコノミークラスの狭い座席に閉じ込められ身動きできないままである。しかもその間アルコール飲み放題の食事が三度提供され、まるで太るために飼育されている養豚さながらの状態であった。

それ以来、愛車同様の健康管理と長寿を全うするため一万歩歩行と節酒の毎日である。

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