随意随想

「スポーツ万歳!」

NPO法人JMCA理事長 羽間 鋭雄

私は、小学校低学年の頃の、「阪神タイガース少年友の会」の会員から始まり、中・高・大学と陸上競技に打ち込んで箱根駅伝にも出場し、続いて10数年に亘ってボデイビルのトレーニングに打ち込んで、まさに、より速く、より強くを求め続けた経験を持っていますが、一方で、健康づくりの仕事に関わるにつれて、スポーツや運動に対する考え方がどんどん変化してきました。

結論から言えば、「より速く、より高く、より強く」を目的とするチャンピオンシップスポーツは、健康づくりには適さないということです。

「より速く、より高く、より強く」を目指すためには、「痛い、辛い、苦しい」と感じる強い刺激を与える必要があります。この痛さや辛さや苦しさを乗り越えない限り、より速く、より高く、より強くなることはできません。

しかし、痛い、辛い、苦しいということは、それを続けることによって体に生じる弊害を避けるために、「無理をするな!」という体の信号に他ならないのです。チャンピオンを目指すスポーツマンたちが、1年を通して五体満足であることがほとんどないといっても過言ではないように、無理をすることは、健康のためには決して良いことではありません。

しかし、私は、けっして、チャンピオンシップスポーツが悪いとか価値がないと思っているわけではありません。

人に勝つために、あらん限りの努力を必要とするチャンピオンシップスポーツは、体育のみならず、知育、徳育にも有効な素晴らしい教育の手段だと思っています。

どんな競技においても、技術や体力を高めるためのトレーニングだけでは好成績を望めるはずはありません。作戦、栄養問題、精神的鍛錬、人との関わり方など、人並み以上の創意工夫と実に多彩な要素や能力を高めない限り、十分にその成果をあげることはできません。

バルセロナオリンピックで、一躍日本のヒロインになった高橋尚子選手の金メダルは、ただひたすら走ることによってのみもたらされたものでは決してないのです。周囲の心配と批判を恐れず、おそらく失敗と紙一重であったであろう3500mの高地でのトレーニングを課したコーチの英断とそれを可能にした綿密な計画や観察力、ゆるぎない自信と人を信頼することや感謝の心の養成、十分な栄養管理や体のケアー、シューズやウェァーの工夫などなどなど、実に多くの要素のすべてがうまく機能したとき、初めてそれが金メダルへとつながったのだと思います。

スポーツは、まぎれもなく人類が築き上げた文化であり、重要な知的財産のひとつです。多くの感動を与えてくれるオリンピックで繰り広げられる、まるで人間業とは思えないような技も能力も、他の動物には真似の出来ない、優れた知性を持つ人間だからこそなし得るものなのです。多岐にわたる知識と無限の創造力、それらを機能的に組み立てる能力、それを実行に移す意志力などなど、優れた頭脳と豊かな知性なくしてチャンピオンへの道は開かれません。

すなわち、スポーツは「知育」に貢献できるすばらしい手段であるといえます。

また、広く知られている「健全なる精神は、健全なる肉体に宿る」というギリシャ時代の言葉にあるように、スポーツが、今特に問題視される自分勝手で協調性に欠ける現代の風潮を質し、豊かな人間性や礼節を習得することに役立つことは、常に、一流のメダリストたちのすべてが、こぞって好ましい人柄を漂わせ、また驕ることなく、自分と関り合うすべての人々に厚い感謝の言葉を繰り返し述べることからも十分伺うことが出来ます。

それは、世界の頂点に立つという想像を絶するような努力をした者だけが体験する、自然に、腹の底から湧き出てくる本当の心なのだろうと思われます。人間性の涵養もまた、その努力の大きさと成果の達成度に比例すると言えるのかもしれません。

まさにスポーツは、「徳」の養成においてもまた、すばらしい貢献をなすものなのです。

まさにスポーツ万歳です。

「健康のための体にやさしいスポーツ!」「楽しむためのスポーツ!」そして「勝つためにすべてをかけて若い血潮をたぎらせるスポーツ!」などなど、活き活きと豊かな人生を送るための一つのスパイスとして、目的に応じたスポーツを、上手く日々の生活の中に取り入れていただきたいと思います。

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